不正注文と異議申し立ての監視プログラム

カードネットワーク (VisaやMastercardなど) に対する財務上の義務の一環として、ストアでの不審請求申請 (チャージバック) や不正使用を許容範囲内に収める必要があります。チャージバックや不正使用の金額がカードネットワークで設定された限界値を超えると、不審請求申請または不正使用監視プログラムの対象となる場合があります。その場合、これらのプログラムの一環として、罰金と追加料金が月々発生する可能性があります。

Visa監視プログラム

Visaは、Visa不審請求申請監視プログラム (VDMP) とVisa不正使用監視プログラム (VFMP) という2種類の監視プログラムを運用しています。毎月、Visaによって取引が審査され、監視プログラムの対象となる限界値を超えたかどうかが判断されます。

Visaの監視プログラムには、早期警戒、標準、超過という3つの限界値が設けられています。マーチャントが限界値に達すると、そのマーチャントはプログラムの終了条件が成立するまでその監視レベルにとどまります。たとえば、Svenのストアにおいて、総取引件数の0.9%を超える割合のチャージバックが発生し、標準レベルのVDMPが適用されたとします。そして翌月、Svenのストアのチャージバック数の割合が2.1%に増加したとします。これは、超過レベルの限界値である1.8%を超えています。このとき、Svenのストアは、異議申し立て件数の割合が超過レベルの限界値である1.8%を下回った場合でも、プログラムの終了条件を完全に満たすまで超過の監視レベルが適用されます。

Visaでは、不審請求申請や不正使用の件数が3か月間連続 (追跡期間と呼ばれます) で標準レベルの限界値を下回った場合、監視プログラムの対象から除外されます。追跡期間中に不審請求申請や不正使用の件数が限界値を上回ると、監視プログラムは最初からではなく、当初のタイムラインで再開します。たとえば、Susanのストアに総取引件数の0.9%を超える割合の不正取引が発生し、ストアがVFMPの対象となりました。不正取引のレベルは6か月間停滞しました。翌月、このレベルが0.6%に下がったため追跡期間が開始しました。さらにその翌月、不正取引件数の割合が総取引件数の1.2%に上昇しました。この際、VFMPは1か月目からではなく、7か月目から再開します。

Visa異議申し立て監視プログラム

VDMPは、アカウントで発生するチャージバックのレベルが異常に高いマーチャントに適用されます。月初めにVisaによって前月のアクティビティが審査され、あらかじめ設定された限界値を超えていないかどうかが判断されます。

以下のいずれかまたは両方の値が限界値以上となった場合、そのマーチャントにVDMPが適用されます。

  • 異議申し立て件数:異議申し立てがなされた取引の総数
  • 異議申し立て率:総取引件数のうち異議申し立てがなされた取引が占める割合
VDMPの監視レベルに関する説明
監視レベル異議申し立て件数異議申し立て率罰則
早期警戒750.65%罰金は科されません。罰金が科される前に、不審請求申請の件数を減らす措置を取ることができます。

不正使用の早期警告について詳しくはこちらをご覧ください。
スタンダード1000.9%
  • 1~4か月:罰金なし。
  • 5~9か月:不審請求申請が発生するたびに50米ドル。
  • 10~11か月:不審請求申請が発生するたびに50米ドル。欧州連合以外のマーチャントに対して25,000米ドルの審査手数料が請求されます。また、マーチャントが監査の対象となる場合があります。
  • 12か月以上:不審請求申請が発生するたびに50米ドル。マーチャントに対して25,000米ドルの審査手数料が請求されます。また、マーチャントが監査の対象となる場合があります。
このプログラムの適用期間が12か月以上となった場合、マーチャントはVisaの利用資格を失う可能性があります。資格を失った場合、Visaの決済を処理できなくなります。
超過1,0001.8%
  • 1~6か月:不審請求申請が発生するたびに50米ドル。
  • 7~11か月:不審請求申請が発生するたびに50米ドル。欧州連合以外のマーチャントに対して25,000米ドルの審査手数料が請求される場合があります。
  • 10~11か月:不審請求申請が発生するたびに50米ドル。欧州連合以外のマーチャントに対して25,000米ドルの審査手数料が請求される場合があります。
  • 12か月以上:不審請求申請が発生するたびに50米ドル。マーチャントに対して25,000米ドルの審査手数料が請求される場合があります。
このプログラムの適用期間が12か月以上となった場合、マーチャントはVisaの利用資格を失う可能性があります。資格を失った場合、Visaの決済を処理できなくなります。

Visa不正注文監視プログラム

アカウントにおいて不正注文が大量に発生しているマーチャントに対し、VFMPが適用されます。不正注文とは、カード所有者が承認していない取引のことを指します。これはチャージバックとは異なりますが、一般に、不正取引はカード所有者によるチャージバックの原因となります。月初めにVisaによって前月のアクティビティが審査され、あらかじめ設定された限界値を超えていないかどうかが判断されます。

以下のいずれかまたは両方の値が限界値以上となった場合、そのマーチャントにVFMPが適用されます。

  • 不正注文額:米ドルで算出された不正取引の総額
  • 不正注文率:総取引件数のうち不正取引が占める割合

次の表は、VFMPの限界値と罰則を示しています。

VFMPの監視レベルに関する説明
監視レベル不正注文額不正注文率罰則
早期警戒50,000米ドル0.65%罰金は科されません。罰金が科される前に、不正注文件数を減らす措置を実施することができます。不正使用の早期警告について詳しくはこちらをご覧ください。
スタンダード75,000米ドル0.9%アメリカのマーチャントは、3Dセキュア取引のライアビリティシフトの利用資格を即座に失います。その他の国や地域のマーチャントは、5か月目にライアビリティシフトの利用資格を失います。プログラムの終了条件が満たされるまで、すなわち、不正使用のレベルが下がり、3か月の追跡期間が経過するまで、ライアビリティシフトを再度利用することはできません。

  • 1~4か月:罰金なし。
  • 5~6か月:25,000米ドル。
  • 7~9か月:50,000米ドル。
  • 10~12か月:75,000米ドル。
このプログラムの適用期間が12か月以上となった場合、マーチャントはVisaの利用資格を失う可能性があります。資格を失った場合、Visaの決済を処理できなくなります。
超過250,000米ドル1.8%アメリカ国外のマーチャントは、3Dセキュア取引のライアビリティシフトの利用資格を即座に失います。プログラムの終了条件が満たされるまで、すなわち、不正使用のレベルが下がり、3か月の追跡期間が経過するまで、ライアビリティシフトを再度利用することはできません。

  • 1~3か月:10,000米ドル。
  • 4~6か月:25,000米ドル。
  • 7~9か月:50,000米ドル。
  • 10~12か月:75,000米ドル。
  • 12か月以上:75,000米ドル以上。
このプログラムの適用期間が12か月以上となった場合、マーチャントはVisaの利用資格を失う可能性があります。資格を失った場合、Visaの決済を処理できなくなります。

Visa不正注文監視プログラム (アメリカのマーチャントの3DSのみ)

Visaでは、アメリカのマーチャント専用のVFMPプログラムを導入しています。このプログラムは、アカウントにおいてアメリカ国内の3Dセキュア不正注文が大量に発生しているマーチャントに適用されます。月初めにVisaによって前月のアクティビティが審査され、あらかじめ設定された限界値を超えていないかどうかが判断されます。

以下の値すべてが限界値以上となった場合は、アメリカのマーチャントに3DS VFMPが適用されます。

  • 不正注文額:アメリカ国内のVisa 3DS不正取引の総額
  • 不正注文率:アメリカ国内の3DS取引総額のうち不正取引が占める割合
アメリカ専用の3DS VFMPの監視レベルに関する説明
監視レベル不正注文額不正注文率罰則
早期警戒50,000米ドル0.5%罰金は科されません。罰金が科される前に、不正注文件数を減らす措置を実施することができます。不正使用の早期警告について詳しくはこちらをご覧ください。
スタンダード75,000米ドル0.9%罰金は科せられませんが、マーチャントは3Dセキュア取引のライアビリティシフトの利用資格を失います。プログラムの終了条件が満たされるまで、すなわち、不正使用のレベルが下がり、3か月の追跡期間が経過するまで、ライアビリティシフトを再度利用することはできません。

Visa不正注文監視プログラム (デジタルマーチャント)

Visaでは、デジタル商品を販売するマーチャント専用のVFMPプログラムも導入しています。このプログラムは、次のマーチャントカテゴリーコードを持つマーチャントに影響します。

  • 5735:レコード店
  • 5815:デジタル商品メディア - 書籍、動画、デジタルアート、デジタル画像、音楽
  • 5816:デジタル商品 - ゲーム
  • 5817:デジタル商品 - アプリケーション (ゲームを除く)
  • 5818:デジタル商品 - 大型デジタル商品マーチャント

月初めにVisaによって前月のアクティビティが審査され、あらかじめ設定された限界値を超えていないかどうかが判断されます。

以下のすべての条件で基準を満たしたり超えたりした場合には、そのマーチャントにVFMP Digital Goodsが適用されます。

  • 不正注文額:米ドルで算出された不正取引の総額
  • 不正注文件数:不正注文取引の総数
  • 不正注文率:総取引件数のうち不正取引が占める割合
VFMP Digital Goodsの監視レベルに関する説明。
監視レベル不正注文額不正注文件数不正注文率罰則
早期警戒15,000米ドル1500.45%罰金は科されません。罰金が科される前に、不正注文件数を減らす措置を実施することができます。不正使用の早期警告について詳しくはこちらをご覧ください。
スタンダード25,000米ドル3000.9%マーチャントは、5か月目に3Dセキュア取引のライアビリティシフトの利用資格を失います。プログラムの終了条件が満たされるまで、すなわち、不正使用のレベルが下がり、3か月の追跡期間が経過するまで、ライアビリティシフトを再度利用することはできません。

  • 1~4か月:罰金なし。
  • 5~6か月:25,000米ドル。
  • 7~9か月:50,000米ドル。
  • 10~12か月:75,000米ドル。
  • 12か月以上:75,000米ドル。
このプログラムの適用期間が12か月以上となった場合、マーチャントはVisaの利用資格を失う可能性があります。資格を失った場合、Visaの決済を処理できなくなります。

Mastercard監視プログラム

Mastercardは、過剰チャージバックプログラム (ECP) と過剰不正使用マーチャント (EFM) コンプライアンスプログラムという2種類の監視プログラムを運用しています。毎月、Mastercardによって取引が審査され、監視プログラムが適用される限界値を超えたかどうかが判断されます。

ECPには、チャージバックが多いマーチャント (ECM) とチャージバックが異常に多いマーチャント (HECM) という2つのレベルがあります。

Mastercardでは、不審請求申請のレベルが3か月連続でECMの限界値を下回った場合、ECMの対象から除外されます。EFMの対象から除外されるには、少なくとも1つの状態を3か月間連続で回避する必要があります。

Mastercard超過チャージバックプログラム

以下の両方の値が限界値以上となった場合、そのマーチャントにECPが適用されます。

  • 異議申し立て件数:異議申し立てがなされた取引の総数
  • 異議申し立て率:総取引件数のうち異議申し立てがなされた取引が占める割合
Mastercardチャージバック監視プログラムの監視レベルに関する説明
監視レベル異議申し立て件数異議申し立て率罰則
ECM100~2991.5~2.99%
  • 1か月:罰金なし
  • 2か月:1,000米ドル。
  • 3か月:2,000米ドル。
  • 4~6か月:5,000米ドル、およびカード会社によるリカバリー評価。
  • 7~11か月:25,000米ドル、およびカード会社によるリカバリー評価。
  • 12~18か月:50,000米ドル、およびカード会社によるリカバリー評価。
  • 19か月以上:100,000米ドル、およびカード会社によるリカバリー評価。
4か月以降、マーチャントはカード会社によるリカバリー評価の対象となります。この評価では、1か月のチャージバックが300回に達すると、それ以降1回のチャージバックごとに5米ドルの手数料が加算されます。
HECM300以上3%
  • 1か月:罰金なし
  • 2か月:1,000米ドル。
  • 3か月:2,000米ドル。
  • 4~6か月:10,000米ドル、およびカード会社によるリカバリー評価。
  • 7~11か月:50,000米ドル、およびカード会社によるリカバリー評価。
  • 12~18か月:100,000米ドル、およびカード会社によるリカバリー評価。
  • 19か月以上:200,000米ドル、およびカード会社によるリカバリー評価。
4か月以降、マーチャントはカード会社によるリカバリー評価の対象となります。この評価では、1か月のチャージバックが300回に達すると、それ以降1回のチャージバックごとに5米ドルの手数料が加算されます。

Mastercard超過不正注文マーチャントコンプライアンスプログラム

マーチャントがEFMの適用対象となったかどうかを判断するMastercardのプロセスは、ECPの計算と似ています。ただし、不正チャージバック率は不正なチャージバックのみに基づき計算されます。

以下のすべての値が限界値以上となった場合、そのマーチャントにEFMプログラムが適用されます。

  • 決済件数:EコマースのMastercard総決済件数
  • 不正注文額:異議申し立て理由コード (理由コード4837および4863) に基づいて計算された、米ドルでの不正なチャージバックの合計額
  • 不正注文率:総取引件数のうち不正取引が占める割合
  • 3DS率:決済総額のうち3DS Mastercard決済額が占める割合
EFMの監視に関する説明
決済件数上限値不正注文額上限値不正チャージバック率上限値3DS率下限値罰則
1,000以上50,000米ドル以上0.50%以上
  • Mastercard総決済件数の10% (規制されていない国の場合)
  • Mastercard総決済件数の50% (規制されている国の場合)
  • 1か月:罰金なし
  • 2か月:500米ドル。
  • 3か月:1,000米ドル。
  • 4~6か月:25,000米ドル。
  • 7~11か月:25,000米ドル。
  • 12~18か月:50,000米ドル。
  • 19か月以上:100,000米ドル。

不正注文早期警告

不正注文早期警告 (EFW) は、VisaのTC40レポートとMastercardのSystem to Avoid Fraud Effectively (SAFE) レポートから供給されるメッセージです。このメッセージは、ネットワークのカード発行会社が、不正注文の疑いのある決済を警告するために生成します。ネットワークはカード発行者に不正注文を報告するよう求めますが、その要求にかかわらずカード発行者は異議申し立てを行うことができます。

返金された取引では、不正注文早期警告が発信される可能性があります。返金に対する不正注文レポートの発信は、返金の取り消し処理が決済のキャプチャから2時間以内に行われた場合にのみ避けることができます。

これは不正注文早期警告と呼ばれますが、不正注文の請求に関する異議申し立てを受けた後にEFWを受信する可能性もあります。これは通常、ネットワークがEFWの処理に使用するシステムと異議申し立ての処理に使用するシステムは異なり、システムが常に同期してるとは限らないためです。

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